A:第二王女 ポールディア
一年ほど前、フッブート王国の遺跡に侵入したスカベンジャーが、地下深くに造られた牢獄の中で、鎖に繋がれた魔物を見たという。その牢獄の扉には「ポールディア」と刻まれていたそうだが、これは王国が滅亡した時点における第二王女の名と一致する。そして、壁には血文字でこう書き残されていた。
「王位継承権に目が眩み、あの男の話に乗ったのが間違いであった。よもや、この私が捨て駒のように利用されるだけなどと……。嗚呼、せめて姉も同じ末路を辿らんことを!」とな。
~ナッツ・クランの手配書より
https://gyazo.com/6e2d8a389dbedf4afabf95083500556e
ショートショートエオルゼア冒険譚
「さぁ、その薬を飲み干して欲していた力を手に入れろ。そして愚鈍な姉から王位継承権を奪いとれ!」
第二王女のポールディアは黒いローブの男に言われるまま、差し出されたグラスを手に取ると一度微笑んでから一気に飲み干した。するとどうしたことか、ポールディアの体がどんどん大きくなり、針金のような体毛に覆われていく。
「これは…、これはなんなの!」
ポールディアは恐怖と苦悶に歪んだ顔で叫んだ。すると黒いローブの男は高笑いしながら叫んだ。
「それはお前が求めてやまなかった“力”だ!血を分けた姉を亡きものとし、王位を奪おうなどとは心の醜いお前にはその姿がお似合いだ!」
ポールディアは頭を抱えて絶叫した。
「よくも…よくも騙したわね!覚えていろ!一族郎党、末代まで呪ってやる!呪ってやるからなぁ!」
そういうと先程までポールディアだった魔物は咆哮した。
こうして姉から王位を奪おうとした欲深く、野心家の妹姫ポールディアはお城から離れた地下の牢獄に捕らわれ、王位には心優しい姉が就きフッブート王国には永く平和な時代が訪れましたとさ」
今は存在しないフッブート王国に伝わる昔話の一節だとフッブート王国にルーツを持つクランのメンバーが教えてくれた。
内容としては、野心の強い第二王女が怪しげな男の甘言に乗り、力を得て王位を奪おうとするも怪しげな男に騙されて化け物になってしまうという話で「過ぎた野心や欲望に憑りつかれると身を亡ぼす」という教訓を含んでいて、今でも寝物語として子供たちに話して聞かせる類のお伽話らしい。
だが、実際にフッブート王国の遺跡から発掘された文献を当たると事実とは少し違うようだ。
昔話にはよくあることだが、話を面白くするために尾鰭背鰭をつけたり、前王に対する後世の印象を良くするために嘘を混ぜたりするのはありがちな事で、さらに口伝で伝わるうちに登場人物の性格や立場が逆転したりしてしまう事はよくあることだ。今回も例に漏れず、実際は激情家で攻撃的だったのは第一王女である姉君の方で、第二王女は非常に温和でおっとりした性格だったらしい。激情家で独裁的な姉君は政治手腕こそ優れていたが、国民から批判されることが多く、おっとりしていて思いやりに溢れ国民からの人気も高い妹君に対して激しく嫉妬し憎しみを抱き、目障りに感じていたらしい。
実際、当時は王女や国を批判すると拘束され拷問された。また場合によっては処刑もされていたし、国中が殺伐とした寒い空気であったことは間違いない。
さらに、第一王女が自ら進んでした政略結婚の相手が心優しい妹君に惹かれてしまった事が決定打となり姉君の激情に完全に火をつけてしまった。暴走を始めた姉君はフッブート王国の外に住む魔女に使いを出し、毒薬を手に入れると、それを妹君の食事に混ぜて飲ませようとした。しかし、姉君が抱く妹君への殺意を察知した妹君に恋する政略結婚の相手、つまり国王である自分の旦那に裏を掻かれ、自らがその毒を飲むことになってしまう。やがて薬の効果が現れ、姉君は手足などの体の末端から徐々に魔獣へと変化していく。妹君は自分を殺そうとした姉君だったが、それでも献身的に看病したのだという。
そして全身が魔獣と化し、手が付けられなくなった姉君は国王の命により人もこないようなフッブート王国領の外れにある牢獄に手足を鎖でつないだ状態で投獄された。それでも後世に見栄を張りたい姉君は化け物になったのが妹君であると誤認させるために血文字でこう記したという。
「王位継承権に目が眩み、あの男の話に乗ったのが間違いであった。 よもや、この私が捨て駒のように利用されるだけなどと……。嗚呼、せめて姉も同じ末路を辿らんことを!」
恐らくはこれがおとぎ話の基になっているのだと思われる。
そして姉君の代わりに優しい妹君が王位につき、殺伐とした国は平和で穏やかな国となった。いつしか姉君の存在は人々の心から忘れ去られ、人々が罪喰いから逃れるためにフッブート王国を離れるその頃には、彼女が投獄されていることすら思い出せるような者はなかったという。。
何故そんな話をしたのか?
約1年前にこの文献に基づき遺跡に侵入した者がいた。地下深くに造られた牢獄の中で、魔物が繋がれていたであろう千切れた太い鎖や拘束具の一部が発見されたのだが、魔物の姿はそこにはなかった。その牢獄の扉には刻まれていた文字を削り消した跡があり、その上に「ポールディア」と深く彫り込まれていたそうだ。「ポールディア」とは王国が滅亡した時点における第二王女、つまり妹君の名前だ。
いまこの化け物はイル・メグのどこかを彷徨っている。今回はこいつがターゲットだ。