A:第二王女 ポールディア
一年ほど前、フッブート王国の遺跡に侵入したスカベンジャーが、地下深くに造られた牢獄の中で、鎖に繋がれた魔物を見たという。その牢獄の扉には「ポールディア」と刻まれていたそうだが、これは王国が滅亡した時点における第二王女の名と一致する。そして、壁には血文字でこう書き残されていた。
「王位継承権に目が眩み、あの男の話に乗ったのが間違いであった。よもや、この私が捨て駒のように利用されるだけなどと……。嗚呼、せめて姉も同じ末路を辿らんことを!」とな。
~ナッツ・クランの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「さぁ、その薬を飲井干して欲していた力を手に入れろ。そして愚鈍な姉から王位継承権を奪い取れ!」
第二王女のポールディアは黒いローブの男に言われるまま、差し出されたグラスを手に取ると一度微笑んでから一気に飲み干した。するとどうしたことかポールディアの体はどんどん大きくなり、針金のような体毛に覆われていく。
「これは…、これはなんなの!」
ポールディアは恐怖と苦悶に歪んだ顔で叫んだ。すると黒いローブの男は高笑いしながら叫んだ。
「それはお前が求めてやまなかった“力‘だ!血を分けた姉を亡きものとし、王位を奪おうなどとは心の醜いお前にはその姿がお似合いだ!」
ポールディアは頭を抱えて絶叫した。
「よくも…よくも騙したわね!覚えていろ!一族郎党、末代まで呪ってやる!呪ってやるからなぁ!」
そういうと先程までポールディアだった魔物は咆哮した。
こうして姉から王位を奪おうとした欲深く、野心家の妹君ポールディアはお城から離れた地下の牢獄に捕らわれましたとさ。
これはクリスタリウムに移住したフッブート王国にルーツを持つクランのメンバーが教えてくれた寝物語だ。内容としては、野心の強い第二王女が怪しげな男に騙されて化け物になってしまうという話で「過ぎた野心は身を亡ぼす」という教訓を含んでいて、今でも子供達に話して聞かせるという類のお伽話らしい。
だが、実際にフッブート王国の遺跡から発掘された文献を当たると事実はだいぶ違うらしい。
昔話にはよくある事だが、話を面白くするために尾鰭背鰭をつけたり、後世への印象を良くするため嘘を混ぜたりするのはありがちな事で、さらに口伝で伝わるうちに登場人物の性格や立場が逆転したりしてしまうことはよくある事だ。今回も例に漏れず、実際の所は王家の相談役まで務めた宮廷魔導師が自分の野望を満たすために第二王女を手玉に取り事件を起こしたというのが真相だ。
王より政略結婚の撤回の条件として「宮廷魔導師となること」を課せられた魔法の苦手な第二王女はさる筋から隠れた能力を引き出す秘術の伝授を受けた。この秘術は未完成であり悪用する事が可能なものだったらしい。それを目ざとく聞きつけた野心家の宮廷魔導師は魔法がらみの事件を起こせば王位継承前の大手柄として第一王女はその捜査の陣頭指揮を執ることになる。その機に第二王女に、秘術を使い姉を殺害すれば王位継承差になれると唆した。そして王位継承権に目がくらんだ第二王女ポールディアは国民の魔物化事件を引き起こし、目論見どうりその捜査を第一王女が指揮することになった。
権力を求める野心家の宮廷魔導師の言うままに第二王女は第一王女に魔物化する術をかけた。しかし、第二王女自身も宮廷魔導師に謀られ秘術をかけられてしまったらしい。魔物化が始まった第二王女はその目論見が国にばれて城の地下牢に幽閉されてしまう。また黒幕であることが明らかとなった宮廷魔導師は第一王女に討たれる直前に苦し紛れに第一王女にも術をかけたのだという。魔物化していく第一王女は絶望のうちに自ら命を絶った。後継者を失ったフッブート王国は光の氾濫と罪喰いの来襲に耐え兼ね、完全に魔物化してしまったポールディアもろとも国を放棄するに至った、これが真相らしい。
なぜこんな話をしたのか?
実は約1年前にこの文献に基づきフッブート王国の遺跡に侵入した者が居た。地下深くに造られた牢獄の中で、魔物が繋がれていたであろう千切れた太い鎖や拘束具の一部が発見されたのだが、魔物の姿はそこにはなかった。牢獄の扉には刻まれていた文字を削り消した跡があり、その上に「ポールディア」と深く刻まれていたそうだ。そう、この「ポールディア」とは宮廷魔導師と結託し、姉を殺して王位を手に入れようとした王国滅亡時の第二王女、つまり妹君のポールディアの名前だ。今この化け物はイル・メグのどこかを彷徨い歩いている。